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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

その上に半里の道程を、死に物狂いに走って来たのである。疲労切ったのは当然と云えよう。

とうとう侍女達は草の上へ坐って、慟哭の声を上げ出した。もう一寸も歩けないのであった。

慟哭をしている侍女達を巡って、曠野は広く物寂しく、しかし草の花や灌木の花に、華やかに飾られて拡がっていて、その草の花の間から、また灌木の花の間から、兎や野猫や黄鼬などが、いぶかしそうに顔を覗かせ、侍女達の方を窺った。それらの物の上にあるのは、晴れた六月の蒼い空と、燃えている六月の太陽とで、鳶らしい鳥や烏らしい鳥や、鷹らしい鳥や野鳩らしい鳥が、そういう地上の悲惨事などには、関係がないというように翼を揮って翔けてもいた。

走って行く力はなくなっていたが、声を上げる力は残っていた。

で侍女達は慟哭しながら、

「オ――イ! オ――イ! オ――イ! オ――イ!」と、呼んだ。

悲しみに充ちた声であった。曠野にはいつの場合でも、微風が渡っているものである。その微風に乗りながら、その悲しい侍女達の声は、遠くへ送られて行くようであった。

とはいえ半里をへだてている、白河戸郷の郷へまでは、送られて行くものとは思われない。