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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

森林が茅野雄を呑んだのである。

物語少しく後へ戻る。

飛騨の萩村は街道筋における、相当に賑やかな駅であって、旅籠屋などにもよいものがあった。

宮川茅野雄が難を受け、森林の中へ姿を没した、ちょうどその日のことであったが、この萩村の四挺の駕籠が、旅人を乗せて入り込んで来た。

夕暮のことであったので、旅籠屋の門口では出女などが、大声で旅人を呼んでいた。

その一軒の柏屋というのへ、一挺の駕籠が入って行った。

駕籠から現われたのは若い武士であったが、高貴の身分のお方らしく、云われぬ威厳を持っていた。

で、丁寧にあつかわれて、奥まった部屋へ通って行った。

その武士の乗っていた駕籠の後から、もう一挺の駕籠がついて来たが、これは柏屋の前を過ぎて、先の方へ向かって進んで行った。

が、どうしたのか不意に止まると、ユルユルと後へ引っ返して、柏屋の門口で止まってしまった。

と、その中から客が出たが、それは威厳のある老武士であった。

そうしてこの武士も丁寧に、下女に奥の間へ案内されて、姿を消してしまった時、二挺の駕籠が肩を揃えて、同じ柏屋の門口へ止まった。

一挺の駕籠から現われたのは、身分に見当の附かないような、小気味の悪い老人であったが、もう一挺の駕籠から現われたのは、美しい若い女であった。