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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

にも話しぶりにも、穏かな沈着いたところがあった。

せむしの老人が体を延ばして、石楠花の花を折ろうとしたが、どうにも身長が届かなかったので、人々はドッと声を上げて笑った。とは云え笑ったそういう声にも、軽蔑らしい響きなどはなかった。

笑い声が高く大きかったからか、小鳥の群が棹をなして、日光の明るいそこの空間を、斜めに矢のように翔けて通った。

「幸福そうでございますな」

ふと茅野雄は浪江へ云った。

「幸福なのでございますよ」

こう浪江は答えはしたが、苦しそうなところが声にあった。

「偽瞞であろうとカラクリであろうと、それが信じられているうちは、幸福なのでございますよ。あの可哀そうな業病人達は」

(偽瞞? カラクリ? 何のことだろう?)

茅野雄には浪江の云った言葉が、審しいものに思われた。

(これもやっぱり洞窟の中の、内陣に置いてある何らかの物と、関係のある言葉に相違ない)

で、茅野雄は押し強く訊いた。

「浪江殿、お話しくださるまいか。内陣には何がありますので?」

「…………」

浪江は返辞はしなかったが、云いたいと努力しているようであった。

二人は宛なしに足を運んだ。