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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

大金剛石のあの光は、『美』その物の最上的具現で、芸術的であったので、それで誘惑されたのだと。……金銭の事に関しても、勿論人は罪悪を犯す。が、そのための罪悪は、俗で非芸術的で不愉快だ。……ところで人間というものは、『美』のためにも罪悪を犯す。この方の罪悪は芸術的だ。……そこでこういうことが云われる。完全の美とか最大級の美とかは、阿片のように罪なものだ。と」

その時一人のお小姓が、恭しく天目を捧げながら、襖をあけて入って来た。

小姓を見ると碩寿翁は「おやッ」とばかりに声を上げた。

と、すぐに一人の小間使いが、菓子盆を恭しく持って来て、二人の間へしとやかに置いた。

「碩寿翁」と笑いながら慶正卿が云った。

「京助はあの通りピンピンしている。今は俺の小姓になっている。……菓子を持って来た小間使いには、お前は覚えはなかろうが、声には覚えがあるはずだ。……お前が京助を殺そうとした時、一軒のみすぼらしい家の中で、俺と話していた娘なのだ。……今、あの二人は夫婦になっている。夫婦にしたのはこの俺さ。……が、俺はもう二人の男女を、ほんの最近に夫婦にしてやった」

そういう言葉の終えない内に、小姓の京助が再度あらわれて、慶正卿に囁いた。