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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

と、続いて呼ぶ声が聞こえたからである。

で、京助は声の来た方を見た。

盆のようにも大きな顔には、鈎のような鼻が盛り上っているし、牛のようにも太い頸筋には静脈が紐のように蜒っている、半白ではあったがたっぷりとある髪を、太々しく髷に取り上げている、年の格好は六十前後であったが、血色がよくて肥えていて、皮膚に弛みがないところから五十歳ぐらいにしか思われない。松倉屋の主人の勘右衛門であった。勘右衛門がそう云って呼び止めたのであった。

と、見て取った手代の京助は、不機嫌らしい顔をしたが、不精々々に挨拶をした。

「へい、これは旦那様で。ちょっと出かけて参ります」

で、手に持った包み物を、胸へ大事そうに抱くようにしたが、云いすてて門の方へ行こうとした。

邪魔がはいる

「お待ち」と勘右衛門は迂散くさそうに云った。

「何だ何だ持っている物は?」

すると京助は首を振るようにしたが、

「さあ何でありましょうやら、とんと私は存じません」

「で、どこへ持って行くのだ」

いかにも昔は抜け荷買いなどを、お上の眼を盗んでやったらしい、鋭い、光の強い、兇暴らしい、不気味な巨眼で食い付くように、勘右衛門は京助が胸へ抱いている小さな包物を見詰めたが、