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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

こう宛名が記されてある。

「なるほど」と京助は声を洩らしたが、

(ははあそうか、根津なのか。よしよし根津へ行ってやろう。……ところでここはどこなのかしら?)

で、四辺を見廻して見た。

(おやおやここは蝋燭町らしい)

夢中で小走って来たがために、神田の区域の蝋燭町という、根津とはまるっきり反対の方へ、京助は来たことに感付いた。

(いけないいけない引っ返してやろう)

で、きびすをクルリと返すと、根津の方へ歩き出した。

永い夏の日も暮れかけていて、夕日が町の片側の、駄菓子屋だの荒物屋だの八百屋だのの、店先をカッと明るめていた。妙にひっそりとした往来であって、歩いている人影もまばらである。赤児の泣き声が聞こえてきたり、犬の吠え声が聞こえてきたりしたが、それさえ貧しげな町の通りを、寂しくするに役立つだけであった。

(ここから根津へ行こうとするには、どう道順を取ったらよかろう? ……雉子町へ出て、駿河台へ出て、橋を渡って松住町へ出て、神田神社から湯島神社へ抜けて、それから上野の裾を巡って、根津へ行くのがよさそうだ。どれ)

と、云うので足を早めた。

しかし半町とは歩かない中に、京助は仰天して足を止めた。