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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

昼の日があたっているからであろう。道の小石や大石が、キラキラと所々白く光った。

しかし、弦四郎と思われるような、人の姿は見えなかった。

(不思議だな、どうしたのであろう?)

宮川茅野雄は首を捻ったが、ややあって苦い笑いをもらした。

(何も近くにいるのなら、矢文を射てよこすはずはない。遠くに隠れているのだろう。そこから矢文を射てよこしたのだ。そうしてそこから窺っているのだ)

それにしても戦国の時代ではなし、矢文を射ってよこすとは、すこし古風に過ぎるようだ。――こう思って茅野雄はおかしかった。

(弓矢で人を嚇すなんて、今時なら山賊のやることだがなあ)

考えていたところで仕方がない。用心しいしい進んで行くことにした。

で、茅野雄は歩き出した。

裾べり野袴に菅の笠、柄袋をかけた細身の大小、あられ小紋の手甲に脚絆、――旅装いは尋常であった。

峠の路は歩きにくい、野茨が野袴の裾を引いたり、崖から落ちて来る泉の水が、峠の道に溢れ出て、膝に浸くまでに溜っていたりした。

高山の城下へ着くまでには、まだまだ十里はあるだろう。それまでに人家がなかろうものなら、野宿をしなければならないだろう。