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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

すなわち影法師の落ちているところの、野の花は影法師に蔽われて、色と艶とを失って、暗い姿となるのであるが、その反対に影法師が、先へ進んで行ってしまうと、暗い姿であった野の花が、鮮かに色と艶を甦生らすからであった。

こうして一行は進んで行ったが、一つの小さな林まで来た。

と、その林の向こう側から、女の歌声が聞こえてきた。

で、弦四郎の一行は、顔を互いに見合わせたが、眼を返すと木立の隙から、歌声の来る方をすかして見た。

被衣を冠った一人の乙女を、十数人の娘達が、守護するように囲繞して、各自野花を手にかざして、歌いながらこっちへ歩いて来ていた。

「素晴らしい代物がやって来たぞ」

額に瘤のある若者が、こう頓狂に声を上げた。

「醍醐殿々々々ご覧なされ、被衣を冠っているあの女が、白河戸郷の長をしている、将監の娘の小枝でございますよ」

「そうか」と弦四郎は小枝を見詰めた。

「遠眼でしかとは解らないが、いかさま美しい娘らしい。……が、何のために女ばかり揃って、こんな所へ来たのだろう」

しかし弦四郎にはそんなことは、どうであろうと関係はなかった。

弦四郎はすぐに計画を案じた。