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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页

青空文庫

で、今こうやって邂逅って、二言三言罵り合っている間に、弦四郎が茅野雄だということを、早くも見て取って声をかけたのであった。

しかし弦四郎は声をかけてから、「しまった!」と思わざるを得なかった。いやいや、「しまった!」というよりも、「どう処置をしたらよいだろうか?」とこう思わざるを得なかった。と云うのは弦四郎は茅野雄の後を尾行て、わざわざ飛騨の山の中へ、入り込んで来た身の上であって、道に迷って茅野雄を見失い、偶然に丹生川平という、不思議な郷へ入ったものの、心では常時茅野雄の行衛を、知りたいものと思っていた。その茅野雄に今や邂逅ったのである。

本来なれば何も彼もすてて、茅野雄の後を尾行て行くか、でなかったら後腹の痛めぬように――競争相手を滅ぼす意味で――討って取るのが本当であった。

が、しかし今は出来なかった。

と云うのはせっかくに白河戸郷の、郷長の娘の小枝という乙女を、奪って小脇に抱えている。で、この小枝を丹生川平へ、首尾よく連れて行くことが出来たら、白河戸郷の勢力を弱めて、滅ぼすことが出来るかもしれない。滅ぼすことが出来たならば、丹生川平の郷の長の、宮川覚明と約束をした通りに、覚明の娘の浪江という美女を手中へ入れることも出来、それが出来なくとも丹生川平の、守護神とも云うべき神殿の中へ――弦四郎にはある