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たはらしのはんざい

田原氏の犯罪

豊島 与志雄

「黒潮」1917(大正6)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页

青空文庫

その向うに大きい銀杏の樹が二本轟然と聳えていた。

その時良助は使から帰って来た。彼はすぐ二階に呼ばれた。田原さんは、書生兼下男の地位に在るその少年の才能を非常に愛していた。

良助は田原さんの用で、神保町の店まで行ったのであった。神保町の店というのは田原さんの父の時代からやっている電気器械の商店だった。

良助は書斎の入口に、きちんと膝を折って坐った。それから店からの返書を差出した。田原さんがそれを読んでいる間じっと控えていた。

「やあ御苦労だった。」と云って田原さんは返書を巻き収めた。

「もう用はないから階下へ行って勉強するがいい。」

「はい遅くなってすみませんでした。」

「なに遅くなってもかまわないんだが、何だか今日はいつもより手間取ったようだね。家へでも廻ったのか。」

「いえ、広田さんが店に居られなかったものですから。」そう云って良助は、広田さんが店に居なかったので、自宅に尋ねてゆき、また連れ立って店まで帰って来たことを報告した。広田さんと云うのは、店の方を殆んど預っている主任店員だった。終りに良助はこうつけ加えた。

「広田さんも子供が多かったりなんかで、種々家の方に用事もあられますようです。