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でんえんのまぼろし
田園の幻
豊島 与志雄
「世界評論」1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,053 字 · 17 页
伸び上り拡がり分散して、籔や灌木の陰に潜み込む。潜み込んでじっと何かを窺っている。それは忌わしい死の影だ。
その忌わしい死の影が、あの杉の沼のほとりの闇の中を、うろつき廻っているのである。あの辺の堤防の向うの河原を、私たちは投網の夜打ちに通った。あの頃には、お祭りの太鼓の音がしていた。彼女はまだ生きてたのだろうか、もう死んでたのだろうか。いや、彼女の小さな柳甲李が、今でもそこの押入の隅に転がっている……。
夢とも幻ともつかないものから覚めて、私はその柳甲李を憎んだ。うとうとしては何度も眼を覚まし、柳甲李をしんから憎んだ。
然し、翌朝、からりと晴れた陽光を見ると、すべては他愛なく消え去ってしまった。局面は一変して、現実の事態のみが残った。
宗吉は村での知能ある強力者として、朝から飛び廻り、警察の方とも連絡を取っていた。私は彼からだいたいの事情を聞いた。
花子はその夕方、焼酎をひどく飲んで、ふらふらに酔っ払っていたそうである。そしてぶらりと外に出たきりだった。死体に外傷はなく、水も大して飲んでおらず、酩酊のあまり川に落ちて、心臓が痲痺したものと、推定された。