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たざきそううんとそのこ

田崎草雲とその子

吉川 英治

「文藝春秋 夏期増刊号」1932(昭和7)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,568 字 · 40 页

青空文庫

田舎へ、子守奉公にやったが、帰されて来ること、鞠より早い。

『これは、縛るに限る』

と、草雲は、十歳で、足利の藩主の邸に、お茶坊主にやられた。

当主忠文の父、大殿様とよぶ御隠居付きお茶坊主であった。石に因んだ瑞白という名は、その時に誰かが名づけた。

然し、小坊主の瑞白は、ちっとも拘束されてはいない。それにこの御隠居が、変り者で、老童が肝胆相照らしてしまった。

風呂にはいった時だ。御隠居の大殿様、瑞白が、浴槽をまたいで入る所を、手をのばして、彼の可愛らしき物を、ぎゅっと握り、

『ほ。茄子が実っとるぞ』

と、からかわれた。

幾日かすぎて、又、御隠居の垢流しに、風呂のお供をした。何気なく御隠居が入りかける所を、かねて、狙っていた瑞白は、春秋六十年を経たる大殿の股間の一物を、ふわりと後ろから掴んで、

『オヤ、この南瓜は、毛が生えて腐りかけています』

『小僧』

と、御隠居は、掴まれたまま、振り向いて、

『仇討――見事』

と、笑った。

更に、この御隠居には、妙な一癖があって、微行で、歩く時など、自分で自分の鼻をつまみ、少し反り身になったと思うと、

『みんみんみん……』