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たばたのさか

田端の坂

宮本 百合子

「文芸春秋」1927(昭和2)年9月特別号(芥川龍之介追悼号)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,809 字 · 4 页

青空文庫

先より話し易い心持で、探偵小説のことや、アメリカの学校のことなど喋った。着物でも夏であったが、黄麻の無地で、髪や容貌と似合っていた。

その時、別に立ち入った話をした訳ではなかったのに、数日後、私は俥に乗って田端の芥川さんの家を訪ねました。その時分、私は内的に苦しんでいて、その訪問も、愚痴を聞いて欲しいというまでに折れてはいなかったが、自分の芸術の上に確乎としている人に接したい欲求があったと見えます。

少し極りわるく感じながら玄関で案内を乞うたら、芥川さんは何処かへ旅行中の由でした。また俥にのって私は帰って来たきり、手紙も出さず、再び訪ねる機会もなかった。若しかしたら、芥川さんは最後まで、私のこの訪問を御存じなかったかもしれません。会で話したとき、私の心に触れる人間的なものがあった証拠だったと思います。

また或る夜、そこは野上さん家で、芥川さん、内田百間さん、中川一政さん御夫婦と私の集りでした。野上さんの謡の先生に、尾上さんという方があって素晴らしい謡だから一遍きかせたいと、招ばれたのです。謡は謡ですんで、内田さん、芥川さん、互に恐ろしくテムポの速い、謂わば河童的――機智、学識、出鱈目――会話をされた。