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たばたのきしゃそのほか

田端の汽車そのほか

宮本 百合子

「婦人」創刊号、1947(昭和22)年7月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,507 字 · 17 页

青空文庫

同じその四十年代の明治に子供であった私達は、同じその田端田圃の畦道を、三四郎がとこうとして悩んだ悩みもなく、「きいてき一声、新橋を、はやわが汽車ははなれたり」と声はりあげて歌いながら歩いた。余りながく崖の上で汽車を見ていて、この田圃にかかる頃は、もうあたりにいくらか夕靄がこめ、町々に豆腐屋のラッパがきこえはじめる時刻になることもある。子供らは先頭にわたし、しんがりにおとな、という順序で、急な母恋しさに畦道をいそいだ。行手には雑木山があった。子供には、すごく深くおそろしく思ったその雑木山の裾を左へとって、暗いしめっぽい樹の匂いのする急な坂をのぼりきると、松平さんの空地と呼ばれていた広地のからたち垣が見えた。そのからたち垣は、ほんとうに長くて、それについて又左へうねって行くと、大給という華族の黒い大きい門があり、自然に折れて丸善のインク工場の前を通った。そこも右手はまだ松平の空地つづきで、せまい道幅いっぱいによく荷馬車がとまっていた。私たち子供は一列になって息をころして馬のわきをすりぬけ、すりぬけるや否や駈け出し、やがてとまってあとをふりかえってみた。