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たばたのきしゃそのほか

田端の汽車そのほか

宮本 百合子

「婦人」創刊号、1947(昭和22)年7月発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,507 字 · 17 页

青空文庫

漱石は、本郷の千駄木町に住んでいたので初期の作品にはどれもよく団子坂から上野、田端あたりの情景が出て来る。「吾輩は猫である」の中にがらくた中学として有名だった郁文館の中学生のボール悪戯が描かれているのを知らぬものはない。「三四郎」には、明治四十年代の団子坂名物であった菊人形のこともあるし、田端と本郷台との間の田圃のあたりも描かれている。

後年渡辺治衛門というあかじや銀行のもち主がそこを買いしめて、情趣もない渡辺町という名をつけ、分譲地にしたあたり一帯は道灌山つづきで、大きい斜面に雑木林があり、トロッコがころがったりしている原っぱは広大な佐竹ケ原であった。原っぱをめぐって、僅かの家並があり、その後はすぐ武蔵野の榛の木が影を映す細い川になっていた。その川をわたる本郷台までの間が一面の田圃と畑で、春にはそこに若草も生え、れんげ草も咲いた。漱石の三四郎が、きょうの読者の感覚でみればかなり気障でたまらない美禰子という美しい人に、当時の文展がえりを散歩に誘われ、この辺の田端田圃のどこかの草原に休んで、美禰子が夕映を眺めながら謎のように迷える羊というひとりごとをくりかえすのをきいた。