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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
彼は、仕事の済むまで妹の邪魔をしまいと思って、入口の所で黙って立っていた。すると、すぐに房子がそれを見つけて、嬉しそうに走け出して来て兄を中へ案内した。青々としたすべての葉が、今灌ぎかけられた水のためにいっそう生々と光沢を添えて、見るからに健康そうで幸福そうであった。煌々と光る露のダイヤモンドが、方々で幽かな音を立ててしきりに滴っていた。
二人は、その園の一隈にあるベンチの上へ並んで腰をおろした。
庸介は非常に爽やかな気持ちになって来た。それと同時に、妹の房子がこれまでになく可愛らしく感じられて来た。彼女は、その辺にある、まだ花を附けない二三の草花について説明をした。それから、どうしたのだか、そのベンチのすぐ側の所に植えられてある、咲き揃うているスウィート・ピーの花にじっと見入りながら黙り込んでしまった。兄は、妹のそのようすに気がつくと、「このような、可憐な少女の心にも何かなやみと云ったようなものがあり得るものだろうか。」と思った。「もしも、実際にそんなものがあるのだとすれば俺の力で何とかそれを今すぐに除き去ってやりたいものだ。」心の中で静かにこう云った。