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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

しかし、彼は、そんな事は素振りにも見せずに、

「何て綺麗なんだろう。そして、まあ、何て可愛らしいんだろうね。この赤い花は!」

うぶ毛の生えている妹の白い手を執らぬばかりにして、こう云った。

こう云われて房子ははっとした。そして懶げに、とは云えいかにも懐かしげに、

「え。わたしはこの花が大変に好きなんですのよ。」と、云った。

彼女は、先刻から、いつか一度は試してそれに対する兄の意見を訊いてみようと思っていた例の自分の唯一の問題についてしきりに考えていたのであった。兄さんこそは本当に自分の心に納得できるような答をしてくれる人だと、ずーっと以前からそう思うていたのであった。兄さんは、何と云っても自分の知っているすべての中での一番立派な思想家なんだ、とは彼女の堅く信じている所であった。それに兄さんは誰よりも今の若い人達の心をよく知っている。そして事実、東京で若い多くの女のお友達もおありの事であったろうし……こんなふうにも思うているのであった。――いつか云い出そう、云い出そうと思いながら、いつも良い機会を見出せないでいたのを、今こそはもっとも良い時だと、先刻、最初に兄の顔をちらと見た時にすぐにそう思ったのであった。