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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
そして三ヶ村に一軒位の割で、とてつもなく大きな地主がある。こういう地主になると米を毎年七八千俵から、多いのになると三万俵も、それ以上も売るというのである。で、住宅なども四囲に際立って宏壮なものである。多くは旧くからの家柄で、邸の内外には数百年の老樹が繁っているのを見受けるのである。現に、庸介の親戚にも千何百年も続いたという旧家が一軒ある。――それで是等の豪家の人達がどんな暮らしをしているかと云うに、たいていは、多くの番頭どもを相手に銭の勘定をしたり、家の普請をしたり、庭の手入をしたり、そんなきわめて泰平な事で一生涯を終ってしまうのである。そしてこの土地から一歩も離れてみた事もなく死んでしまうものも決して尠くないのである。……小作人共は、収穫の分け前の事で年中何かと愚痴をこぼしているが、さて、それだと云ってそれをどうしようともしない。何か良い法案を携えて地主へ願い出ようという者も一人もない。そんな所から見ると、彼等はあながちに彼等の常に口にするほど窮境にいるのでもないらしい。……
彼は遠く眺めやり、かついろいろと考えた。
実に長い長い平穏と伝習との覚める事のない夢だ。