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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

一つの村、そしてその隣りの村々、町、町々、……五里、十里、二十里……、すべてその通りだ。見渡すかぎり涯なく続くこの耕原の中には、濛々と吐き出すただ一本の煙突の形さえも見出されない。どこまでも澄み切って静かである。あゝ、伝習の静けさ、眠りの静けさ、実に堪えられぬ退屈だ。どこへ行っても、いかなる家を訪れても、そこには「新らしい企て」そんなものは噂にさえ聞くことができないではないか。「何事もなかれ、ただ静かに、ただ静かに。」こういう声が形なく天地に漲っているのだ。

やがて、庸介は大きな息をして、大空を仰ぎ上げた。――これはまた、何という高さであろう。まあ、実に何という美しさであろう。何という事なしにこう、「際涯もなく」という感じがされるではないか。青く青く澄んで、何とも云えず明るい。

足の下の谷々で鳴いている小鳥の声が、一つ一つ強く響き渡って、じーっと耳をすましていると、それ等の遠い近い数限りもない音のために耳の中が一ぱいになってゆく。

庸介はこれらの清らかさ、静けさに酔わされてしばしの間恍惚としていた。が、すぐにそのあとからある寂寥が徐々として彼に襲いかかって来た。