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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
彼は、そこから再び外へ出て来ると、いつも「まったく安全だ。」こう思わない事はなかった。
彼女の心は、すでに十分に鞣され、撓められてあった。この上はただ、彼女に最後の暗示を与えさえすればよいのであった。……
十二
農家では夕飯がすむと多くは早くから寝床へもぐり込んだ。若い者どもだけは、煙草入れや尺八などを腰へさしこんでそーっと外へ出て行った。卑猥な雑談にふけったり、流行唄を唄ったりして夜更けまで闇の中をあちこちとうろつき廻った。年頃の娘のいる家の裏口のあたりへ忍び寄って、泥棒ではないかと家の人達に怪しませたりする事も尠くはなかった。庸介の家の女中部屋の裏でも時々そうした怪しい人影が出没した。夜廻りに行った人に驚いて、慌ててばたばた走け出したりする事もたびたびであった。家の人達は老医師はじめそれを快い事には思わぬながらも、長年馴れっこになっている事とてさして気にも掛けなかった。ところが、都会の学校生活を終って来たばかりの房子には、それが酷く気に入らなかった。何かにつけてそれを云い出した。
「厭だわ! ほんとに。……妾にはとても我慢ができない!」