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ゆふいんこう
由布院行
中谷 宇吉郎
「社会及国家」1926(大正15)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,779 字 · 14 页
その仔牛の周章て方には思わず吹き出させられる。
「こんなところにいる牛は随分仕合せですね」というと、相乗の爺さんが、「いいや、そうでもごわんせん。彼奴らもやっぱり淋しくなると見えまして、時々家へ戻って行きますが、叱りつけられてまた山へ行きますわい」という。何でも、農繁期の時だけ連れ帰って仕事をさせて、後は邪魔になるのでまた山へやって置くのだそうである。牛共も毎日一回運転手に叱られて、時々はおかみさんにも叱られて、やはりあのようにきょとんとした顔をしているのだろうと思うと、ちょっと可笑しくなる。
伯父の家は、金鱗湖という小池のふちの茅葺の家である。別府で一流のKというホテルの主人の別荘地を拓いているのである。伯父も変り者であるが、Kの主人はまた一層変っている。こんな山の中に六千坪の地面を買いこんで、金鱗湖などという池まで取り入れて、それを全部伯父に預けて、その趣味のままの庭園を拓かせようというのであるから、その計企からして世離れがしている。伯父が遠い国からやって来て、別府に移り住んで間もない頃、雑草のようなものを鉢に植え込んで軒先に出して置いたのを、Kの主人が通りがかりに見て、感心してはいり込んで来たので知り合いになったのだそうである。