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ゆふいんこう
由布院行
中谷 宇吉郎
「社会及国家」1926(大正15)年5月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,779 字 · 14 页
趣味の方では、伯父は一廉の見識をもっていた。それで庭などを造るにも、金鱗湖とか、その向うの由布山の密林とか、裏の田とかいうものが注意して背景としてとり入れてあった。家の後には流れの速い川があって、日常の生活はこれで足りていた。飲用にもなった。従弟は自分のために、この川へ硝子罎を沈めて鮠を取ったり、笊を持ち出して蜆を拾ったりしてくれた。そして秋だったら、由布山の麓を一周りして来れば、初茸が籠一杯とれるのにと残念がってくれた。
永く隔絶されていた土地だけに、天産物は豊かだった。六年前に来た時、例の汚い宿で、金鱗湖の鯉は名物であるから見て来いと勧められて、夜更くなって見に行ったことがあった。その時には、その池に一杯になる位沢山大きい鯉がいて、月明りの下で盛に跳っていた。勿論養魚場だろうと思っていたのに、今度来て見ると一匹もいない。聞けば、主のない池だったので、鯉は自然に繁殖していたのだそうで、この頃になって乗合自動車が通うようになったら、みんな捕られてしまったのだそうである。余り暢気な話なので可笑しくなってしまった。
伯父は丹精して作った野菜やら、鯉やら、鶏やらを沢山御馳走してくれた。