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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
岡本綺堂『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』。同一底本的分册已合并为一书。收入:海亀、鴛鴦鏡、鐘ヶ淵、こま犬、水鬼、指輪一つ、離魂病、木曽の旅人、西瓜、白髪鬼、百物語、妖婆、停車場の少女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 页
唯たびたび逢っているので、自然おたがいが懇意になっていたというだけのことでしたが、ある日のこと、やっぱり今時分でした。市野さんが釣りの帰りにいつもの通りわたくしの店へ寄って、お茶を飲んだり塩煎餅をたべたりした時に、わたくしが何ごころなく傍へ行って、きょうはたくさん釣れましたかと聞くと、市野さんは笑いながら、いや今日は不思議になんにも釣れなかった。この通り魚籠は空だが、しかしこんなものを取って来たといって、魚籠のなかから何か草のようなものを掴み出してみせたので、わたくしもうっかり覗いてみますと、それは川に浮いている幽霊藻なんです。あなたも御存知でしょう、幽霊藻を……。」
「幽霊藻……。知っています。」と僕は暗いなかでうなずいた。
「あらいやだと思って、わたくしは思わず身をひこうとすると、市野さんは冗談半分でしょう、そら幽霊が取り付くぞと言って、その草をわたくしの胸へ押し込んだのです。暑い時分で、単衣の胸をはだけていたので、ぬれている藻がふところに滑り込んで、乳のあたりにぬらりとねばり付くと、わたくしは冷たいのと気味が悪いのとでぞっとしました。市野さんは面白そうに笑っていましたが、悪いたずらにも程があると思って、わたくしは腹が立ってなりませんでした。