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うみがめ
異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二
岡本 綺堂
岡本綺堂『異妖の怪談集 岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二』。同一底本的分册已合并为一书。收入:海亀、鴛鴦鏡、鐘ヶ淵、こま犬、水鬼、指輪一つ、離魂病、木曽の旅人、西瓜、白髪鬼、百物語、妖婆、停車場の少女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 144,507 字 · 291 页
町から一里ほど歩いても、このごろの日はまだ暮れそうにも見えない。子供の時からたびたび来ているので、僕もこの川筋の釣り場所は大抵心得ているから、堤の芒をかきわけて適当なところに陣取って、向う岸の櫨の並木が夕日にいろどられているのを眺めながら、悠々と糸を垂れはじめた。
前置きが少し長くなったが、話の本文はいよいよこれからだと思いたまえ。
子どもの時からあまり上手でもなかったが、年を取ってからいよいよ下手になったとみえて、小一時間も糸をおろしていたが一向に釣れない。すこし飽きて来て、もう浮木の方へは眼もくれず、足もとに乱れて咲いている草の花などをながめているうちに、ふと或る小さい花が水の上に漂っているのを見つけた。僕の土地ではそれを幽霊藻とか幽霊草とかいうのだ。普通の幽霊草というのは曼珠沙華のことで、墓場などの暗い湿っぽいところに多く咲いているので、幽霊草とか幽霊花とかいう名を付けられたのだが、ここらでいう幽霊藻はまったくそれとは別種のもので、水のまにまに漂っている一種の藻のような浮き草だ。なんでも夏の初めから秋の中ごろへかけて、水の上にこの花の姿をみることが多いようだ。