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ぎわく
疑惑
江戸川 乱歩
「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年9月15日、25日、10月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,308 字 · 37 页
「何だか耳にふたしたい様な話しだ。聞いている僕がそうなんだから、話している君の方は、どんなにか不愉快だろう」
「不愉快という様な感じは、もう通り越して終った。近頃では、世の中が、何かこう、まるで違った物に見える。ああして、往来を歩いている人達の暢気相な、楽天的な顔を見ると、いつも不思議な気がする。あいつらだって、あんな平気な顔をしているけれど、きっと親父やお袋を殺しているのだ、なんて考えることがある。……大分離れた。尾行の奴、人通りが少くなったものだから、一町もあとからやって来る」
「だが君、たしかお父さんの殺された場所には、兄さんのハンカチが落ちていたのではないか」
「そうだ。だから、まるきり兄きに対する疑いがはれた訳ではないのだ。それに、母親にしたって、疑っていいのか、どうか、はっきりは分らない。妙なことには、母親は母親で、また、たれかを疑っているのだ。まるで、いたちごっこだ。滑けいな意味でではなく、何ともいえぬ物すごい意味で。……昨日の夕方のことだ。もう大分暗くなっていた。何の気なしに、二階から降りて来ると、そこの縁側に母親が立っているのだ。何かをソッと伺っているという様子だ。