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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

小っちゃい可愛らしいお内儀さんが出来上ってよ。まるで、お人形みたいだって、御近所で評判になることよ」

銀三は笑いながら聞いているが、こんなことを言われるたびに、いつも戸惑いしてしまう。そして、だんだん笑わないで、考え込むようになった。

或る日、地震があって、電球が僅か揺れたぐらいでやんでしまったが、咄嗟に、寿女も銀三も座を立ちかけた。胡粉で下絵から布地に絵を写していた連之助だけは、素知らぬ顔で続けている。微かな揺れかえしがきた時、中腰になっていた寿女は大袈裟に蹣跚けて隣りの枠台に手をつき、胡粉皿がひっくりかえった。写しかけの綴れの布に白い絵具がべっとりと流れ、連之助は、呆然と顔を上げて、寿女を見た。

また、或る日、銀三といつもの冗談口をききあっていた寿女が、大きな声を上げて笑い出すと、連之助が顔を上げて、

「少し静かにして下さい」

と怒鳴った。

「こちらはこちら、そちらはそちらよ。おうるさかったら、どうぞ塀でもまわして下さいな、お隣りさん」

寿女は取り澄まして、持ち針をちょいちょいと髪へなすりつけながら酬いた。

「何を言う」

と、連之助はむっとして針を続けたが、不意に、「あっ!」