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はっくつしたびじょ

発掘した美女

坂口 安吾

「講談倶楽部 第五巻第四号」1953(昭和28)年11月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 29 页

青空文庫

万事ロマンチックにいこうという精神であった。

「そうですか。そういうお方なら、この土地のためですから、やりましょう。しかし、黒滝まではハイヤーは登れません。バスの終点から四キロぐらいまでは登れますが、あと一キロほどは歩いていただかねばなりません。相当の山道ですよ」

バスが運転中止というだけあって、大変な悪路であった。バスのタイヤの跡が一尺以上めりこんでいる。車の速力よりも歩く方が速いところが何箇所もあって、そのたびに先廻りして自動車を待ったり、後を押したりしなければならない。車の行ける限度まで登ると、そこからは瞼しい山道を谷底へ向って下るのである。

「二三丈の大蛇かムカデでも現れそうな道だね。こんな大荷物を背負ってくるんじゃなかったなア。すこし分散しましょうか」

「カバン持ちの義務だから、ダメよ」

一夫は歯をくいしばって一キロの難路を歩かなければならなかった。ロマンチック用の食糧を山とつみこんだリュックだから、大変な重さなのだ。

「この道は熊や鹿の歩く道ですよ。温泉客の通る道じゃないね。この道幅の細さから考えたって、黒滝温泉てところには、ここ二三年お客が一人も来たことがないんじゃないかと思われますよ」