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しろいかげ
白い影
小川 未明
「婦人公論」1923(大正12)年1月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,097 字 · 13 页
最初、白い男を見て、汽車を脱線さしたばかりでなく、自分も負傷した運転手は、神経衰弱から、むだ目が見えたのだと判断されたものの、とにかく汽車を脱線さした責任から退職させられて、いまでは、町に近い港の汽船問屋に勤めていたのであります。
もう秋も末のことでありました。今夜にも、冬がやってきそうに、空の色は澄んで海の色はさえていました。野原の中の林も色づいて、こずえからは、黄色い葉がひとりでにこぼれるように、ほろほろと落ちていました。また、街の並木の葉は、たいてい落ちつくしてしまって、黒い小枝の先が青い空の下に細かく、網の目のように透いて見えていました。
この港から、南洋の方へゆく船は、今夜出てゆくのが今年じゅうの最終でありましたが、あまりそれには乗ってゆく客もなかったのです。
夕陽は、岡を染め街に沈みかかっています。そのとき、汽船の待合室に、いつかの運転手は、一人の不思議な女をみとめました。
目の美しい、髪のちぢれた娘が、燃えるような赤マントを着て、たった一人ベンチに腰をかけて、悲しそうな目つきで、海の上をながめていたのです。そして、娘は、手の中に、小さい真っ白なねこを抱いていました。