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しろいみち
白い道
徳永 直
「新潮」1948(昭和23)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,169 字 · 36 页
彼女の幻影をとりとめようとして、三吉がそんなことをいった。いいながら案外平気でいっている自分を淋しく感じている。
「ええ、でも田甫道あるいていると、作歌ができまして――」
「サクカ?」
気がつくと、彼女は弁当づつみのあいだにうすっぺらな雑誌をいれていた。彼女のある期待が、歌などよくわからない三吉にその雑誌をひろげてみねば悪いようにさせた。そして雑誌をめくりながら、彼女の歌がどれであるかなど、心にとめることも出来ず、相手にひったくられるまで、ボンヤリとそこらに眼をおいていた。
「――サンポなさいません?」
三吉たちの生活にはないそんな文句をいわれて、あわててたちあがったとき、もうとり戻しが出来ぬほど遠いうしろに自分がいることを、三吉は感じずにいられなかった。桜並木の小径をくだって、練兵場のやぶかげの近道を、いつも彼女が帰ってゆく土堤上の道にでると、もう夕映えも消えた稲田甫の遠くは紫色にもやっていた。
「あなた、いつもここを、あの、いらっしゃったでしょ」
例の、肩をぶっつけるようにして、それから前こごみに彼女は笑いこけた。
「ええ」
と、こたえながら、三吉はほんとに呆然としている自分をみた。