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しろいみち
白い道
徳永 直
「新潮」1948(昭和23)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,169 字 · 36 页
「ずいぶん、ごねっしんね」
低声で嫁さんがいうと、
「え」
と三吉が、真顔でこたえ、嫁さんがまたふきだすと、三吉も一緒にわらった。
嫁にきて間がない深水の細君は、眼も、口も、鼻も、そろって小さく、まるい顔して、ころころにふとっていた。何畳だか、一間きりの家の中はよくかたづいていて、あたらしいタンスや紅いきれのかかった鏡台やがあった。
「印刷工組合の指導者、青井三吉も、女にかかると、あかんな、うーん」
長野がコップをつきつけた。女房に子供もあるがチャップリンひげと、ながいあごをもっているこの男は、そんな意味でも女工たちに人気があった。三吉は焼酎をのみながら、事務的に用件をいった。いいながら自分に腹がたってくる。どうしてもこの男にバカにされてしまう。――用件というのは、東京の「前衛」社から高島貞喜がくるという通知を受けとったこと、その演説会と座談会をやるため、印刷工組合と友愛会支部とで出来ている熊本労働組合連合会の役員たちが宣伝をうけもつこと、高島の接待は第五高等学校の連中がやること等であった。しかし同じ新人会熊本支部員である長野も深水も、この用件にあまり興味をもたなかった。