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はくとうのうた

白塔の歌

豊島 与志雄

――近代伝説――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,450 字 · 43 页

青空文庫

「あれは済んだよ。」

「そうか。」と荘一清は答えました。

高賓如を憚って、二人はそれっきり何ともいいませんでしたが、拳銃の一件だとはっきり通じたのでありました。

汪紹生はまだすっかり自分を取戻していないようでした。――彼は何か堪えられない気持で、一人で室から逃げ出し、外廊の柱によりかかっていましたが、長い間たったと思える頃、柳秋雲が足音をぬすんで駆け寄ってきました。彼女は汪紹生の顔を見つめて、「お約束のものは……。」とぽつりといいました。汪紹生は内隠しから拳銃の包みを取出しました。柳秋雲はそれを受取って、懐にしまいました。そしていいました。

「私の……すべてを、信じて下さいますか。」「信じます。」と汪紹生は答えました。柳秋雲は片手を差出しました。汪紹生はその手を強く握りしめました。そして薄暗がりの中で、柳秋雲の眼が次第に大きくなり、妖しい光を湛えて、更に大きく更に深くなるように、汪紹生には思えました。彼はその眼の中に溺れかけました。とたんに、柳秋雲は手を離して、風のように立去ってゆきました。――その時の、まるで幻覚のような印象は、非常に強烈なもので、汪紹生は我を忘れ、そこの柱に身をもたせて、いつまでも凝然としていたのでありました。