轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しらねのふもと
白峰の麓
大下 藤次郎
「みずゑ」1910(明治43)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页
昨日のことを忘れないのだ。母親も忙しい中を、剃刀出して「よしえ」の顔を剃る、髪を結ぶ、紅いリボンをかける。木綿の黄八丈はいつの間にか着せられて、友禅モスリンの帯が結ばれた。座蒲団を敷いてチョコンと座って「サー官員サン写してもらうぞえ」と腮を突出し、両手を膝の上に重ねた。
絶体絶命、モデルの押売、今更厭ともいえない。スケッチブックを出して簡単な鉛筆写生、赤いのや青いのやを塗りつける。どうしたはずみか顔がよく似たので、当人よりは両親のほうが大喜びだ。手帳から引き裂いてやる。寒い朝で、池の氷は二寸も厚さがある。戸外は真白な霜だ。前の山に上ると富士がよく見える。雪は朝日をうけて薄紅に、前岳はポーと靄が罩めて、一様に深い深い色をしている。急いで写生する。
写生が終って、ふと西の方を向くと、木立の間から雪の山がチラと見える。思いがけない、もっと高いところをと見廻わすと、茶屋の後に大きな草山がある、気もそぞろに駈け上る。元より道はない。枯草を分け熊笹の中を押してゆく、足元から俄に二つの兎が飛び出す。そんなものには目もくれず上へ上へと進む。汗はタクタク流れる。熊笹は尽きて雑木の林になる。