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はくもくれん
白木蓮
豊島 与志雄
「芸術」1947(昭和22)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页
だって、まだ五つか六つだったんですもの。」
「時々、田舎に行ってみたいとは、思わないの。」
「でも、行ったって、つまらないでしょう。」
「そりゃあ、面白いことはないよ。けれど、町中に住んでると、僕なんか、時々田舎に行きたくなる。焼け跡の原っぱに、こうしてじっとしてても、いい気持ちだからね。ただ野原には、焼け跡でもやはり、水のきれいな川がほしいよ。川の流れが一つあれば、野原がほんとに生きてくる。」
この焼け跡に、今迄見られなかった美しい都会が出現するのは、いつのことやら。まずそれまでは、捨て置かれてる空間で、そこに、麦が伸び、蚕豆の花が咲き、雑草が茂り、灌木の茂みも出来るだろう。それらを眺めるのは楽しみである。だがこの楽しみを充実させるには、一筋のきれいな小川の流れが必要だ。――そのようなことを、私は喜美子を相手に独語するのだ。喜美子は微笑みながら私の言葉を聞いてくれる。ただ聞くだけで、はっきりした反応は示さない。然し彼女自身、田舎について何よりも小川のことを記憶しているではないか。その記憶を嬉しく思い、それに頼って、私は私の独語を続けるのだ。
独語の合間に、振り向いてみると、彼女は小川のほとりにでもいるかのように楽しそうだ。