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しろが
白蛾
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,700 字 · 22 页
それでも、彼女はやはり笑顔も見せませんでした。
「お待ちしておりました。」と彼女は言いました。
それから、ちょっと歩こうと言って、彼女は彼を墓地の中へ誘いました。五重塔と高さをきそってる大きな銀杏の木のほとりを、ただ無言のうちにぐるりと一廻りして、そして元の所に出ました。
彼女は尋ねるように彼の顔を見上げました。
「とにかく、どこかへ落着きましょう。」
彼女は頷きました。
何かの場合のため、人の込み合う乗物はいらない近くに、彼は場所を物色していました。
焼け残りの一角の外線、こんもりと大木の茂ったひっそりした所に、高級旅館の名を掲げてる洋館がありました。大きな邸宅だったのをそのまま使用してるのでした。門構えからちょっと坂道をのぼって、玄関のベルを押すと、前日岸本が声をかけておいた時の女中、質朴らしい若い女が出て来ました。そして二人は、六畳の日本室と円形の洋室とがじかに接してるのへ案内されました。窓の外は木影や植込みで、清凉の気が室内にも漂っていました。
岸本は背広の上衣をぬいでネクタイをゆるめ、美津枝は端坐して扇を使い、畳敷の方に卓をはさんで向い合いました。