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しろが

白蛾

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,700 字 · 22 页

青空文庫

「わたくし、昨日もあすこでお待ちしておりました。一昨日もお待ちしておりました。」と彼女は言いました。

「しかし、今日、土曜日というお約束だったでしょう。」

彼女はそれを、耳に入れないのか或は気にしないのか、何の返事もせずに、窓の外に眼をやったきりでした。

「ほんとに静かないい家ですこと。」

岸本はちょっと落着かない気持ちでした。貴婦人らしい装いの彼女は、その白痴美らしい感じ以外、もうお千代さんともすっかり異って見えました。ハノイの某婦人などとは全然異っていました。岸本はやたらに煙草をふかしました。

あり合せの小料理ものを添えて酒が運ばれてくると、岸本はほっと息をつきました。

「あの、お泊りでございましょうか、それとも……。」

その点は、岸本も不用意でした。女中が出て行ったあと、彼は他人事のように美津枝に尋ねました。

「どちらでもおよろしいように……。」と彼女は平然と答えました。

その白々しい顔を、岸本は不気味に眺めました。彼女が花柳界などの空気を吸った女でないことも、また、ひそかに男客を取るような女でないことも、極めて明らかでした。そうだとすれば、なにか性的欠陥のある中性的な女だったのでしょうか。