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しろが
白蛾
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,700 字 · 22 页
その深みに、彼はすっかり落着いて、美津枝に対しては幼な馴染みのような親しみを覚えました。昔のことはとにかく……それから後どうしているかと、ぽつりぽつり、話が進んでゆきました。――彼女は浅草で空襲に逢い、良人やその両親を失い、自分も危く死ぬところでしたが、不思議に怪我一つしないで助かり、今は知人の家に間借りして、兵隊として南方に行ったまま消息不明な弟を待っていると、だいたいそのような境涯らしいようでした。もっとも、それとて、彼女の曖昧な言葉を種に、酔った岸本が想像したことで、真偽のほどは分りかねます。
「墓地のあの銀杏の木と、ちょうど同じ大きさの木がありました。そのまわりを、火がぐるぐる廻って追っかけてきました。わたしもぐるぐる廻って逃げました。鬼ごっこのようでした。そして物に躓いて倒れて、つかまったかと思いましたら、火はもう消えておりました。」
岸本は楽しそうに笑いました。彼女は笑いはしませんでしたが、やはり楽しそうでした。
岸本は大陸の話をしました。おもに虫や動物のことを話しました。人間のことは殆んど彼女の興味を惹かないようでありました。
酒もあき、僅かな鮨をたべ、蚊帳の中に寝ました。