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しろが

白蛾

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,700 字 · 22 页

青空文庫

この一種の白痴美が、彼女とお千代さんとを繋ぐ鍵でありまして、お千代さんは彼女のような女であったに違いないし、また彼女はお千代さんの再現ででもあろうかと、なんとなく、岸本省平にはそう思われるのでした。そしてまた、この焼け残りの人家の聚落と焼け跡の貧しい耕作地との中から、静かに立ち現われてくる女があるとしたら、それは彼女のような者であらねばならないし、他の種類の者であってはならないと、そのようにも思われるのでした。つまり、理知的な或は現代的な女ではなく、一種の白痴美を持っている彼女こそ、まさにその処を得てるのでした。

岸本省平が彼女の方へ眼と心を惹かれはじめたのは、いつどこでだったか定かでありません。彼自ら気がついてみると、彼女を方々で見かけたようでした。町角や都電停留場や店先や焼け跡の木蔭でなどで、或はその瞼の大きなふくらみを眺め、或はその下唇のたるみを眺め、或はその左の眼が物を見つめて細くなるのを眺め、或はその皮膚の薄い滑かさを眺めました。そしてそれが一つにまとまって、没理性的な美しさとして心に残りますと、もういつしか、彼の方から彼女の姿を探し求めるようになっていました。