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しろが
白蛾
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,700 字 · 22 页
谷間の暗渠の蓋を取り去ったならば、そこに昔の小川が出現してくるであろうかと思われるような、妙なことが、実は起っていたのです。一言でいいますれば、街々の被覆が取り去られた焼け跡に、あの橋のたもとのお千代さんが出現していました。
お千代さんについて、岸本省平は、その人柄の漠然たる感じを記憶してるだけで、顔立などはすっかり忘れてしまっていました。そのお千代さんが今、そっくり蘇ってきたのです。お千代さんはあの頃三十歳あまりだったでしょうか。蘇った彼女も同じ年頃でした。普通の瓜実顔にすっきり伸びた頸筋、皮膚は薄くて滑かそうで体は中肉中背といったところでした。ただ、みごとな丸みを持った眉とくっきり長く切れた眼との間が、へんにまのびして、瞼のふくらみが大きく目立ちました。少しく受け口の下唇が、へんにたるんで、その右角が垂れさがり気味でした。じっと物を見る時には、左の眼が少しく持ちあがって細くなりました。それだけの特長ですが、その中に、女性的なやさしさとかふくよかさとか柔かさとか、そういうものを越えて、大袈裟に言えば白痴美とも言えるようなものが湛えられていました。