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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

又四郎はまぶしくなって、庭のほうへ眼をそらして、いった。

「――そろそろ夏になる模様ですねえ」

それから年を越えて三月になるまで、みつ枝の彼に対する世話ぶりは、これまでとは一段と技巧を凝らしたものになった。或る期間は母親のように到れり尽せりで、痒くないところまで手が届くような趣である。が、他のある期間はそっけなく、冷やかで、たいへんすまして、つんと気取ってみせる。

「あらそうでございますか、それならたぶんそうでございましょ」

などといってきちんと正面を見ている、といった調子であった。するとまたどんなからくりになっているのか、急に狎れ狎れと親切になって、眼尻でじっとこっちを見たりする。

「秋成さまがいらしったとき、みつ枝は十六でしたわ、あれから三年、……わたくしもう十八ですわねえ、……十八、わたくしすっかりおばあさんになってしまいましたわ」

十六からまる三年経っている、それで十八という勘定はちょっと腑におちなかった。しかし敢えて異議を立てるにも及ばないので、又四郎はそのときは感慨ありげな顔をして、早いものですねえと答え、

――なんと無邪気な娘であろう。

と思うのであった。