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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页
翌年の三月、藩主摂津守治定の供をして、秋成又四郎はあしかけ五年ぶりに帰国した。三人の親友や、親類知人たちの歓迎のありさまは省略する。ただ親友や知人たちの多くがそれぞれ出世していること、赤井も石谷も双木もすでに結婚し、石谷には男の子、双木文造は女の双生児を儲けたこと、そして太虚寺の雪海和尚がまえの年の冬に大往生をとげたことなど、いろいろ思いがけない変化を聞いたことは収穫であった。
「そうかね、太虚寺の和尚は死んだかね」
又四郎は少しばかり失望的な感じをうけた。彼としては、こんどは多少強硬に文句がいいたかったのである。
「あんな大往生はまず古今絶無だろうな」赤井喜兵衛がこう話して呉れた、「なにしろもう九十という年でさ、毎日酒を二升五合は欠かさず飲んでいた、相変らずなんにもしない、お経も読まない、方丈に寝ころんで、肱枕をして、一日じゅう酒を飲んで、いつ病気になったか誰も知りあしない、いや、病気なんぞなかったかもしれない、……ある日、寺男を呼んだ、いってみるとやっぱり肱枕で、こう寝ころんでいてだな、寺男のほうを見てげっぷと酒臭い息を吐いた。
――ああおめえ弥兵衛か、来ただかね。