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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

「はあ実は」又四郎は眼を俯せた、「――実はですね、あの方と、お二人きりで、その、折入ったお話が、その、したいのですが」

「ああいいとも、いいですとも、折入った話結構です、すぐ呼ばせましょう」こういいながら加久平は立った、「――あれも困った女で、困ったといってはなんだが、あれは哀れな、可哀そうな女なんで、まだ独身なんで、ひとつ、……いやすぐ此処へ来させます」

加久平が出てゆくと、又四郎はかなり傷心の態でじっと俯向いた、「まだ独身なんで――」といった、あれから十年ちかく、約束を守っておかねは独身をとおしていて呉れた、あのときの約束を守っておかねは独身をとおしていて呉れた、あのときの約束を守って、この又四郎のために。

「――あのときみつ枝の話を断わっていいことをした」

又四郎は敬虔に、そっとこう呟いたのである。

彼の精神としては、そのとき正しく敬虔であった。おかねのまごころに対し、その変らざる誓いに対し、そのひと筋な純情に対し、心から低頭する気持であった。……純情の主はまもなく現われた。かなり時間を要したのは化粧をして着替えをしたものらしい。美しいはでな、模様というか柄というか、眼のさめるような色合の着付けで、白粉を濃く塗り、口紅をさしていた。