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めらはかせのふしぎなはんざい
目羅博士の不思議な犯罪
江戸川 乱歩
「文藝倶楽部 探偵小説と滑稽小説号」博文館、1931(昭和6)年4月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,493 字 · 31 页
人の心が燐の様に燃え上るのです。その不可思議な激情が、例えば『月光の曲』を生むのです。詩人ならずとも、月に無常を教えられるのです。『芸術的狂気』という言葉が許されるならば、月は人を『芸術的狂気』に導くものではありますまいか」
青年の話術が、少々ばかり私を辟易させた。
「で、つまり、月光が、その人達を縊死させたとおっしゃるのですか」
「そうです。半ばは月光の罪でした。併し、月の光りが、直に人を自殺させる訳はありません。若しそうだとすれば、今、こうして満身に月の光をあびている私達は、もうそろそろ、首を溢らねばならぬ時分ではありますまいか」
鏡に写った様に見える、青白い青年の顔が、ニヤニヤと笑った。私は、怪談を聞いている子供の様な、おびえを感じないではいられなかった。
「その豪傑事務員は、四日目の晩も、魔の部屋で寝たのです。そして、不幸なことには、その晩は月が冴えていたのです。
私は真夜半に、地下室の蒲団の中で、ふと目を覚まし、高い窓からさし込む月の光を見て、何かしらハッとして、思わず起き上りました。そして、寝間着のまま、エレベーターの横の、狭い階段を、夢中で五階まで駈け昇ったのです。