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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
ものでござります。そうするうちに信長公と長政公と仲たがいをなされまして、両家のあいだにいくさがはじまりましたのは、あれはいつごろでござりましたか。あゝ、姉川の合戦が、元亀がんねんでござりますか。こういうことは旦那さまのようにものゝ本を読んでいらっしゃるおかたの方がよく御存知でござります。なんでも御奉公に出ましてから間もないことでござりまして、不和のおこりと申しますのは、のぶながこうが浅井どのへおことわりもなしに、えちぜんの朝倉どのゝ領分へおとりかけなされたのでござります。いったい浅井のお家と申すのは、先々代すけまさ公のとき、あさくらどのゝ加勢によって御運をおひらきなされまして、それ以来あさくらどのには恩ぎをうけておられます。さればこそ織田家と御えんぐみのときにも越前のくにゝは手をつけぬと、信長公よりかたいせいしをおとりになったのでござりましたが、わずか三ねんとたゝないうちにたちまち誓紙をほごにして、当家へいちごんのあいさつもなく手入れをするとはけしからぬ、信長という奴は軽薄ものだと、だい一に御隠居の下野どのが御りっぷくで、長政公の御殿へおいでになりまして、近習とざまの者までもおあつめになって、のぶながの奴、いまにえちぜんをほろぼして此のしろへ攻めてくるであろう、えちぜんのくにの堅固なあいだ