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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
がたは、紅、おしろい、かみのあぶらなどひとしおこいめにおたしなみあそばし、しろたえのおんはだえにしらあやのおん小袖をめされ、厚板のきんみがきのおん帯に、きんぎん五しきの浮き模様のあるからおりの裲襠をおひきなされていらしったと申します。とのさまはおさかずきを一順おまわしになりますと、「だまってさけばかりのんでおっては気がめいるぞ、明日は浮世にひまをあける身があまりじめ/\していると寄せ手の奴ばらにわらわれる。これから夜どおし風流のあそびをして敵のじんやをおどろかしてやりたいものだ」と仰せられましたところに、はやくも遠くのやぐらの方で、ぽん、ぽん、ぽんとつゞみのおとがひゞきまして、
生きてよも
明日まで人のつらからじ
このゆふぐれを訪へかしな
君を千里において
今も酒を飲み
われと心をなぐさむる
と、たれやら舞をまうらしく、ほがらかなうたいがきこえてまいりましたので、それ、あのものたちに先を越されたぞ、こちらでもあれに負けるなと仰っしゃって、「人間五十年、下天のうちをくらぶれば」と御じぶんがまっさきに敦盛をおうたいなされました。このうたはむかし総見院さまがたいそうおこのみあそばされ、ことに桶狭間かっせんのおりにはおんみずからこれをおうたいなされ今川どのをお討ちとりになりました