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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
ところがおかしみなのでござりましたが、なみいるかた/″\の賑やかなおこえにまじって、おくがたのおわらいなさるおこえがきこえますときは、「あゝ、すこしはごきげんがよいのだな」とおもいまして、どんなにわたくしも勤めがいがありましたことか。なれどもたいへん悲しいことには、おい/\日がたつにつれまして、いくらわたくしが新しい手をかんがえましておもしろおかしくまってごらんにいれましても、「ほゝ」とかすかにえまれるばかりで、やがてそれさえもきこえないことがおおくなってまいりました。
あるひのこと、あまり肩がこってならぬから、すこしりょうじをしてほしいと仰っしゃいますので、おせなかの方へまわりまして揉んでおりますと、おくがたはしとねのうえにおすわりなされ、脇息におよりあそばして、うつら/\まどろんでいらっしゃるのかと思われましたが、そうではなくて、とき/″\ほっとといきをついていらっしゃいます。こういうおりに、いぜんにはよくお話相手をいたしましたのに、ちかごろはめったにお言葉のさがることなどもござりませんので、たゞかしこまってりょうじをいたしておりましたけれども、それがわたくしにはなんとのう気づまりでなりませなんだ。