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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
のは二十九にちの午のこくごろでござりまして、それからは、柴田、木下、前田、佐々の手のものどもが一つになって御ほんまるへおしよせました。ながまさ公はお手まわりの小姓五ひゃくばかりできってゞられさん/″\にてきをなやましてさっとお引きになりましたので、よせてはくろけむりをたてゝ無二むさんにせめましたけれども、塀へとりつこうとするものを突きおとしはねおとし、てきを一人も丸のなかへ入れませなんだ。それで二十九にちのよるは寄せ手もせめあぐんできゅうそくいたしまして、あくる九月ついたちにまたせめてまいりました。ながまさ公はそのときまで父の御さいごを御存じなく、「下野守どのはどうなされた」と小姓におたずねなされましたところに、「ごいんきょはさくじつ御しょうがいでござります」と申しあげるものがおりましたので、「そうとはゆめにも知らなんだ、それをきくからは此の世になんのみれんがあろう、ちゝうえの弔いがっせんをしていさざよくおあとを追うばかりだ」と、巳の刻ごろに二ひゃくばかりで切って出られ、むらがるてきをきりふせ/\一とあしもひかずたゝかわれましたが、柴田木下のぐんぜいがとうまちくいと取りかこみ、味方はわずか五六十人になりましたので、一文字にかけちらし、御ほんまるへ馳せいろうとなされます