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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

仰せでござりましたから、お女中がたやわたくしどもゝおつきそい申しあげまして、長浜よりお船にめされました。おりふし、伊吹やまにはもう雪がつもっておりまして、みずうみのうえはひとしおさむうござりましたけれども、さえわたった朝のことでござりましたので、とおくちかくの山々まではっきり見えたのでござりましょう、お女中がたはみな/\ふなばたにとりついて、ながねんすみなれた土地にわかれを惜しまれ、そらをわたるかりがねのこえ、かもめの羽ばたきにもなみだをながされ、かぜにそよぐあしの葉のおと、なみまにおどる魚のかげにもあわれをもよおされましたことでござります。ふねが竹生しまの沖あいへまいりましたとき、「しばらくこゝでとめておくれ」というおことばでござりまして、いちどう何事かと不しんにぞんじておりますと、やがて舳に経づくえをおなおしなされ、水のおもてにむかってたなごゝろを合わされしずかに御ねんじゅあそばされましたのは、おおかたそのあたりのみなぞこにかの石塔がしずめてあったのでござりましょう。さてはちくぶしまへまいりたいと御意なされたのもそういう仔細がおありになった