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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

さあ、おくがたが清洲にいらっしゃいましたあいだは、小谷のおしろのおちましたのが天しょうがんねんの秋のこと、それよりのぶなが公御逝去のとしの秋ごろまでゞござりますから、あしかけ十年、ざっとまる九ねんの月日になります。まことに光陰は矢のごとしとやら、すぎ去ってみればなるほどそうでござりますけれども、天下のみだれをよそにおながめあそばされ、いつどこに合戦があったとも御存知ないようなひっそりとしたくらしをなされましては、九年というものはずいぶんなごうござります。さればおくがたもいつとはなしに次第にかなしみをおわすれなされ、つれ/″\のおりにはまた琴などのおなぐさみをあそばすようになりました。それにつれましてわたくしも、すきなみちではござりますし、お気散じにもなりますことゆえ、御ほうこうのあいまには唱歌やしゃみせんのけいこをはげみ、わざをみがきまして、いよ/\御意にかないますように出精いたしましたことでござります。唱歌と申せば、あの隆達節という小唄のはやり出しはたしかそのころでござりまして、

さてもそなたは

しもかあられか初ゆきか

しめてぬる