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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

のが天正じゅう年みずのえうまどしのろくがつ二日。なにしろかようなへんじが出来いたそうとはたれいちにんもゆめにもおもいつかなんだことでござります。そのうえおん子城介どのまでがおなじく二条の御所においてあけちが兵に取りこめられて御せっぷくあそばされ、御父子いちどに御他界と知れましたときはまったく世の中がわきかえるようなさわぎでござりました。おりふし御次男きたばたけ中将どのは勢州に御座あそばされ、御三男三七どのは丹羽五ろざえもんどのと御いっしょに泉州堺の津においでなされ、しばた羽柴のかた/″\もそれ/″\とおくへ御出陣でござりまして、あづちのおしろにはお留守居役の蒲生右兵衛大夫どのが手うすのにんずで御台やお女中さまがたをしゅごしておいでなされました。それで侍をはだか馬にのせて御城下へふれあるかせ、「さわぐな/\」と取りしずめて廻られましても、まちかたの者はいまにもあけちが攻めて来ると申して泣くやらわめくやらのうろたえ方でござります。右兵衛だいふどのも最初は安土にろうじょうのかくごでおられましたけれども、こゝではこゝろもとないとおもわれましたか、また急に模様がえになりまして、御台やお局さまがたを早々におつれ申し上げて御自分の居城日野谷へたちのかれました。