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びざん
眉山
「小説新潮」1948(昭和23)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,141 字 · 15 页
中村国男君も、その頃はもう、眉山軒の半常連くらいのところになっていて、そうして眉山は、彼を中村武羅夫氏だとばかり思い込んでいた。
行ってみると、中村武羅夫先生はまだ来ていなくて、林先生の橋田新一郎氏が土間のテーブルで、ひとりでコップ酒を飲みニヤニヤしていた。
「壮観でしたよ。眉山がミソを踏んづけちゃってね。」
「ミソ?」
僕は、カウンターに片肘をのせて立っているおかみさんの顔を見た。
おかみさんは、いかにも不機嫌そうに眉をひそめ、それから仕方無さそうに笑い出し、
「話にも何もなりやしないんですよ、あの子のそそっかしさったら。外からバタバタ眼つきをかえて駈け込んで来て、いきなり、ずぶりですからね。」
「踏んだのか。」
「ええ、きょう配給になったばかりのおミソをお重箱に山もりにして、私も置きどころが悪かったのでしょうけれど、わざわざそれに片足をつっ込まなくてもいいじゃありませんか。しかも、それをぐいと引き抜いて、爪先立ちになってそのまま便所ですからね。どんなに、こらえ切れなくなっていたって、何もそれほどあわて無くてもよろしいじゃございませんか。お便所にミソの足跡なんか、ついていたひには、お客さまが何と、……」